豊かカモ。便利なまちの、その先にある暮らしのヒント

小田原市鴨宮と聞いて、多くの人がまず思い浮かべるのは「便利さ」かもしれません。
実際、大型商業施設のダイナシティがあり、新幹線の停まる小田原駅へのアクセスも良好。日々の買い物にも困らず、車があれば海も山もすぐそこです。
けれど、このまちの魅力はそれだけではありません。
その便利さによって生まれた余白のなかで、人とのつながりや季節の手仕事をたのしむ人たちがいます。
「便利だけど心が満たされない」
「もっと豊かに暮らしたいけれど、何から始めればいいかわからない」
そんな人にとって鴨宮は、豊かな暮らしのヒントを見つけられるまちかもしれません。
今回は、鴨宮にある交流拠点「かもすた(Kamonomiya Start Place)」を訪ね、運営されている中津川さんにお話を伺いました。

かもすたをご夫婦で運営されている中津川さん。
まちと人をゆるやかにつなぐ場所「かもすた」。
かもすたは、「鴨宮で何かを始めたい」「鴨宮をもっとたのしいまちにしたい」という思いから生まれた交流拠点です。
コワーキングスペースやレンタルスタジオ、日替わりカフェ、ワークショップなどを通じて、さまざまな人が行き交います。
ここには、はっきりとしたターゲットのいるコミュニティというよりも、顔を合わせたら少し話す。気になるイベントがあれば参加してみる。
そんな”ゆるやかなつながり”があります。

かもすた。
中津川さんとお話ししていると、鴨宮で豊かに暮らすためのヒントがいくつも見えてきました。
そこで今回は、そのお話や鴨宮(カモノミヤ)というまちをもとに、「豊かになるカモ?」な暮らしのレッスンをご紹介します。
豊かカモ Lesson 1 【便利さを味方につける】
休日のダイナシティには、鴨宮だけでなく西湘エリア各地から多くの人が集まります。そんな週末のにぎわいから少し距離を置いて、平日のうちに買い物を済ませておけるのは、鴨宮に暮らす人ならではの特権です。
暮らしに必要なものはひと通り揃う。だからこそ、生活を回すことだけに時間を使わなくていいんです。
便利さによって生まれた余白が、暮らしをたのしむ時間へと変わっていきます。
休日は人の流れと少し逆方向へ。海辺を散歩したり、箱根や秦野へ小さな遠足に出かけたり。
中津川さんのお気に入りは、豊臣秀吉ゆかりの石垣山一夜城。小高い場所からまちや海を見渡せるお気に入りの場所だそうです。休日の人混みから少し離れ、小高い場所からまちを眺める時間はなんとも贅沢。
また、箱根や秦野など、自然の中へ足を伸ばし、静かな時間を過ごすことも大切にしているそうです。
便利なまちに暮らしていると、つい便利さそのものを追いかけてしまいがちです。でも中津川さんは、その便利さによって生まれた時間を、人混みを避けて自分らしく過ごすために使っています。
便利さを、自分が心地よいと思える時間のために使う。それもまた、鴨宮らしい暮らし方なのかもしれません。
豊かカモ Lesson 2 【ゆるやかにつながる】
かもすたで出店されているお店やワークショップには、どこか共通する空気感があります。
その理由を中津川さんに聞いてみると、「私たちが色をつくっているというより、人が人を紹介してくれているからかもしれません」と話してくれました。
かもすたでイベントに参加した人やポスターを見た人が出店者になり、その出店者に興味を持った人がまた新しい活動を始める。そんなゆるやかなつながりが広がっています。
中津川さんたちが一歩先を引っ張るというより、お客さん同士が半歩先をつくってくれている。そんな感覚なのだそうです。
オープン当初は、ターゲットを絞っていないことに不安もあったといいます。しかし結果として、年齢や立場を問わずさまざまな人が訪れる場所になりました。
特に「子ども食堂」を始めてからは、それまで接点の少なかった小学生や中学生、その保護者とのつながりも生まれたそうです。
特定のコミュニティに入るわけでもなく、無理に参加するわけでもない。でも、ふらりと立ち寄れば知った顔がいて、新しい出会いもある。
人と人とのつながりが自然に広がっていく。かもすたには、そんな心地よい空気が流れていました。

つながりが自然に広がっていく。
豊かカモ Lesson 3 【季節を手で感じる】
梅仕事。しめ縄づくり。料理教室。
かもすたでは、季節を感じるワークショップやイベントが数多く開催されています。
「自分たちがやりたいと思えることじゃないと続かないんじゃないかな」
そう話す中津川さん。だからこそ、かもすたではその時季ならではの営みを大切にしています。
たとえば梅仕事。
やってみたい気持ちはあるけれど、一人で調べて準備してとなると少し腰が重い。そんなことも、みんなで集まれば気軽に始められます。
梅を洗い、手を動かしながらおしゃべりをする。ワークショップには、作業そのものだけでなく、その時間を共有するたのしさがあります。

梅仕事のワークショップ。
しめ縄づくりも同じです。
もともとは毎年お正月に向けてしめ縄を購入していたそうですが、「それなら自分たちで作ってみよう」と始まりました。
きっかけは、近くで田んぼを営む方とのつながりが生まれたこと。無農薬・無肥料で育てた藁を分けてもらい、毎年しめ縄づくりのワークショップを続けています。
子どもたちがたくさん触れても安心な素材であることも、大切な理由のひとつです。

しめ縄のワークショップ。

手でたくさん触っても安心。
買おうと思えば何でもすぐに手に入る時代。
だからこそ、あえて自分の手を動かしてみる。
梅の香りに包まれたり、藁を編みながら誰かと話したりする時間には、数字では測れない豊かさがあります。
季節の移ろいを体で感じること。
そんな時間は、忙しい毎日の中で少し遠ざかっていた季節との距離を、そっと近づけてくれるようです。
豊かカモ Lesson 4 【顔を合わせて暮らす】
豊かな暮らしとは何か。
中津川さんにお尋ねすると、「一手間をかけること、そして顔を合わせること」だと教えてくれました。
今はスーパーやネットで何でも手軽に買える時代です。
便利な一方で、お店の人と言葉を交わす機会は少なくなっています。
「顔を合わせることが、普段の暮らしの豊かさにつながっている気がするんです」
そんなお話をしてくれました。
そんな中で生まれているのが、顔の見えるイベント「かもフェス」です。
かもフェスは、かもすたが主催する地域のお祭り。
「一つの場所だけでは、まちが変わっていくことは難しい。だからこそ、かもすたの中だけで完結するのではなく、まちの中へ小さなきっかけを少しずつ広げていく」という考えから生まれました。

かもフェスの様子。
昔からこの地域にある個人店も協力的で、出店や会場づくりに自然と関わってくれます。
子どもからおじいちゃんおばあちゃんまで、そして昔から住んでいる人も新しく訪れた人も、まずはイベントの1日からでも一緒になってたのしめる日になっています。
そうした関係は、まちの日常の中に静かに広がっていきます。
かもすたでは、出店者の「ひとさじ」さんとのつながりをきっかけに、野菜を置くようになりました。
すると、それまで若い世代が中心だった場所に、近所のおばあちゃんたちが自然と立ち寄るようになりました。
野菜をきっかけに会話が生まれ、顔見知りが増えていく。
そんな小さな積み重ねが、まちの風景を少しずつ変えていきます。
そしてその流れは、地域に根づいた「丸登食堂」にもつながっていきます。
「お塩少なめで」といったちょっとしたやりとりが自然にできるような、顔の見える関係がある場所です。
お昼時には地元の人で賑わい、日常の食堂として愛されています。
イベントで生まれた関係が、日常に溶け込み、また別の日常へと静かに広がっていく。
その循環の中に、鴨宮らしい豊かさがあります。

地元で愛される丸登食堂。

しっかり食べたい日にうれしいボリューム。
豊かカモ Lesson 5 【アナログに触れる】
スマートフォンを開けば、たくさんの情報が流れてきます。
それでも地域には、紙だからこそ届く情報があります。
SNSで見かけたイベントに「いいね」をして、そのまま忘れてしまった。そんな経験がある人も多いのではないでしょうか。
イベントのチラシ。お店のお知らせ。地域の掲示板。
気になったチラシを持ち帰ったり、冷蔵庫に貼ってみたり。
ただ情報を受け取るだけではなく、少しだけまちの出来事に目を向けてみる。すると、まちで起きていることが少しずつ自分ごとになっていくのかもしれません。
実際に、かもすたで開かれるワークショップの参加者の半分ほどは、建物の前を通りかかったことがきっかけだそうです。通勤や買い物の途中に貼り紙を見つけて、「なんだろう」と足を止める。その小さな興味が、新しい出会いにつながっています。
また、ひとさじさんも、かもすたに貼られていたポスターを見たことが、今のお店を始めるきっかけのひとつになったそうです。

人とまちをゆるやかにつなぐ張り紙たち。
アナログに気を配ってみることで、新しい景色が見えてくるのかもしれません。
ひとりで出かける日にも、お気に入りの服を選ぶように。
大切な人を迎える日のように部屋を整えるように。
紙の情報に目を向けることもまた、自分自身の毎日に少し手をかけることなのかもしれません。
中津川さんにお話を伺っている最中も、コワーキングスペースを利用していた方が、その日の日替わり食堂のメニューを見て昼食を決めていました。
レースのカーテン越しには、貼り紙を眺めながら足を止める人の姿が見えることもあるそうです。
誰かが貼った紙に目を留める。
そんな何気ないきっかけが、人とまちをゆるやかにつないでいく。
かもすたで見かけたアナログな景色は、豊かな暮らしのヒントのひとつなのかもしれません。

気になる一枚が、新しい一歩につながるかもしれません。
Lesson 6 【いつもと違う場所で考える】
仕事や勉強、読書。
毎日同じ場所にいると、気づかないうちに思考まで固まってしまうことがあります。
そんなときは、いつもと少し違う場所へ。

かもすたのコワーキングスペース。
かもすたを運営するおふたりは、一級建築士事務所も営んでいます。そんなおふたりらしく、かもすたのコワーキングスペースにも空間や家具へのこだわりが感じられます。
机や椅子には木の温もりがあり、思わず長居したくなるような心地よさがあります。

ただ前に座るだけで、少し整う場所。
集中するための場所でもあり、心地よく過ごしながら考えごとができる場所です。
遠くへ出かけなくてもいい。
暮らしの中に、いつもと違う居場所を持っておく。
それだけで新しいアイデアが生まれたり、誰かとの会話が始まったりすることがあります。
豊かな暮らしは、特別な場所にあるのではなく、自分にとって心地よい居場所を見つけることから始まるのかもしれません。
かもすたのコワーキングスペースは、事前予約制でドロップイン利用も可能です。
まずは少しだけ、鴨宮の時間に混ざってみるような感覚で訪れてみてはいかがですか。
おわりに
鴨宮で感じたのは、便利さの“その先”にある豊かさでした。
かもすたでお話を伺いながら思ったのは、豊かな暮らしとは特別なことではないということ。
顔を合わせて挨拶をすること。
誰かと一緒に梅を触ること。
気になったチラシを手に取ること。
いつもと違う場所に身を置いてみること。
そんな小さな行動の積み重ねが、暮らしを少しずつ豊かにしていくのかもしれません。
そしてそれは、誰かに教わるものというより、自分が少し面白そうだと思うことに手を伸ばした先で見つかるものなのだと思います。
何かを始めたい人がいて、その人を誰かが応援する。
その輪が少しずつ広がっていく。
かもすたにも、鴨宮にも、そんな無理のない心地よさが流れていました。
便利だからこそ生まれる余白を、あなたは何に使いますか。
その答えは、思っているよりすぐそばにあるのかもしれません。
▶かもすた
住所)小田原市鴨宮14-5
「かもすた」WEBサイト)https://kamosuta.site/
[文・櫻井]













