海まで徒歩5分のまちかどにオープンした宿泊施設、その名も『抹香町ハウス』。築約100年の元旅館だった建物を旧三福不動産が設計・施工、インテリアまでトータルコーディネートをしたリノベーション事例です。当時の雰囲気を色濃く残すこの貴重な建物はどのようにリノベーションされたのでしょうか。
 

完成後

 

工事前

＞＞もともとこんな物件でした
『抹香町』、何やら独特の雰囲気を漂わせるこの地名。その昔この周辺にはお寺が多くあり、線香の煙がいつも絶えなかったという理由から『抹香町』と呼ばれていました。そんな歴史ある場所は現在静かな住宅地に。細い路地を進んだその先に抹香町ハウスはあります。
建物は大正末期から昭和初期に建てられたと考えられ、おおよそ築100年。ガラス戸を引いて一歩足を踏み入れるとそこにはどこか懐かしさを感じる土間と板の間が広がり、一気にタイムスリップしたような気持ちになります。
以前は旅館として使われていたため建物内は小さな和室がたくさんある間取り。古い色付きガラスの室内窓や繊細な意匠の欄間が美しく当時のまま残されていました。ただ、お部屋には開かずの腰窓があったり水回りの設備は古かったりとそのままでは使いづらい状態でした。

 

間取り

＞＞こんな空間にしたいなと考えました
まず大きな前提だったのは、貴重な古い建物のため建築当時の建材や仕上げをできる限り残すこと。そのうえで現代のゲストが居心地良く過ごせる空間にしていきます。そのため今回はキッチンや浴室など水回りの動線を見直して使い勝手を上げることが必須でした。
さらに抹香町ハウスは“お試し移住”（単なる観光旅行ではなく、将来的な移住を想定して長期間滞在してもらうサービス）用の宿泊施設としての稼働も予定していたため、長く宿泊する方がリラックスして滞在できるようリビングや寝室以外にも居場所となるスペースをいくつか設けたいと考えました。
　
　
＞＞こんなおうちになりました
もともとの建物の趣や味のある素材を生かしながら、快適な設備をミックスすることでゆったりとくつろげる雰囲気になりました。
中央の8帖の和室はあえて畳のままでリビングとし、人数を限定せず大人数でも囲める大きな円型ローテーブルを配置。ご家族やお仲間でこのテーブルを囲むと“あれっ、気づいたらこんな時間…！”と話が盛り上がりそう。いつの間にかみんなが集まってくるのが和室の魅力かもしれませんね。

廊下を挟んだ向かいの小さな和室3部屋はそのまま寝室に。4.5畳×3部屋なのでプライベート空間を持つことができ、お友達夫婦や大人数でも気にせず利用できます。この各部屋には開かなくなってしまった腰窓がありましたが、その貴重なスペースを有効活用するため、すっきりとした印象のワランベニヤを壁材に使用しベンチシートを設置。小さく囲まれたおこもり空間「ヌック」を作りました。このヌックスペースは、ゆったり本を読んだりお子様なら秘密基地にしたりと使い方はいろいろ。こんな小さな余白もゲストの満足度が上がるポイントになります。
　
また、リビング横の3畳の和室には仕事や作業ができるよう二人掛けのデスクを設けワークスペースに。ワーケーションにも対応できちゃいます。
このワークスペースの隣にあるのが広ーい玄関土間！天井が高い分、閑散とした雰囲気にならないようにサイズの大きなハンモックチェアを置きました。玄関先で地域の方とおしゃべりをしたり、外の空気を吸って気分転換をしたり…玄関としての機能だけではなく多目的に使えるようになりました。
　

古く使いづらいキッチンはシステムキッチンに交換しました。また、もともとなかった洗面室をつくるためにキッチンスペースに壁を設け洗面エリアを新設。家族以外の方との宿泊も考え、洗面台と脱衣場にはあえて仕切る扉をつけることで浴室を使用中でも気にせず使えるように工夫しました。
洗面台とキッチンの壁にはそれぞれ空間を引き締める藍色の釉薬タイルを使用。小口タイルと呼ばれる昔ながらの比率のタイルがレトロで懐かしい雰囲気を演出してくれます。それにより古い既存の内装に新しい水回りの設備がなじみ、一気に魅力的な空間になりました。
　

建物の中央につづく廊下のフローリングには、既存の和の空間に馴染みが良い西南桜を採用。ほんのり赤みがかった色が暗い廊下に明るさをプラスしてくれました。
　

味のある建物とさりげなくも存在感を与えてくれるインテリア、そしてガラス戸から優しく差し込む光がとっても上手く馴染んだ今回の事例。この空間で大人数でなごやかに過ごす画が浮かんできます。ここ抹香町ハウスからたくさんの思い出が生まれるといいなぁ。
　
　
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